第76回 名古屋大学防災アカデミー 2011年1月13日(金) 於:環境総合館レクチャーホール

 

『地元発!』地域素材からわがまちの
『地震像・津波像』を考える

奥 野 真 行

三重県防災危機管理部地震対策室
 

講師紹介

今回の防災アカデミーは、奥野真行さん(三重県防災危機管理部地震対策室主査)にご講演いただきます。

奥野さんは三重県庁が誇る(!)防災の専門家です。気象予報士でもあり、また長年、県内の活断層調査や地震・防災施策に関わってこられました。

最近は伊勢神宮の古文書を調査され、従来知られていなかった過去の東南海地震の存在を明らかにされ、学界を驚かせています。「1361年康安地震は3連動型だった!」などの見出しで新聞やテレビでも度々報道され、ご存じの方も多くいらっしゃると思います。

このように三重県では「地元発」の貴重な災害教訓の発掘や、それによる防災啓発活動も盛んで、我々の今後の取り組みにも大きなヒントを与えてくれています。

講演のようす

会場の様子 講演中の奥野さん
参加者は96名でした。 質疑に答える奥野さん

参加者の感想

今回の奥野氏のご発表では、まず東日本大震災での津波被害の状況について、ご自身が被災地を訪れた際に撮影した写真を交えて、浸水域がいかに予想を超えて広がっていたかをリアルに伝えていただいた。また、震災後に三重県が独自に行った浸水予測調査から、同規模の大地震が東海地方でおこった場合に予想される三重県沿岸部の津波被害範囲を提示され、今後我々が直面するであろう、東海、東南海、南海地震に対して三重県がどのような対策をとろうとしているのかをお話しくださった。
 しかしながら、奥野氏のご活躍はそのような防災行政の実際的な活動ばかりではない。過去繰り返し起こってきた東海、東南海、南海地震等の巨大地震に関する歴史的資料から、「地域に起こりうる『地震像・津波像』を明らかにする」という試みのもと、各地にある様々な遺跡や文献を独自に調査されている。
 過去の巨大地震は、これまで100年0150年ごとに繰り返し起こってきたが、当然ながら、それぞれの時代や地域によってその様相は大きく異なっている。奥野氏は、各地域に残る供養塔や石碑などを一つ一つ調査され、地震当時各地で具体的にどのようなことが起こったのかを検討されてきた。これらの具体的な事例を示しながら氏が述べられたのは、時代や地域による地震の様相の差異をきちんと認識することの重要性である。過去の地震についての断片的な知識から、今後の地震に対して一様なイメージを抱くことの危険性を指摘された。
 また、奥野氏は伊勢神宮の神宮文書を独自に調査され、過去南北朝時代に起こった南海地震と同時期に、実は伊勢近辺でも強い揺れがあったとの記述を発見された。このことは、これまで単独の地震とみられてきたこの時代の南海地震が、他の時代と同様に、連動型の地震であった可能性を示すものである。これについてはまだ不明な点も多く、今後さらなる調査が必要と結ばれた。

私にとって、地震や津波に関する予測や知識は、専門家の方々が最新の数値データをもとに解析、計算して導きだすものというイメージが強くあり、いってみれば人任せにしているところが多分にあった。しかし、今回の奥野氏のご発表から、我々の生活圏内に残されている石碑や電柱など、ごく身近な場所に過去の記録や先人達からのメッセージが多く存在しているということ、そして、特別な機材や知識がなくとも、それらに残された過去の事実から我々が学び考えるべきことがいかに多いかということをあらためて考えさせられた。また、奥野氏は過去の地震の多様性を説かれるとともに、歴史は繰り返すのだということも強く主張され、我々が過去からきちんと学んでいれば予測できること、防げることが多くあるということも示唆された。ご自身の足で様々な地域へおもむき、調査を重ねられている熱意と真摯な姿勢は、この先起こるであろう自然災害に対して、我々一人一人がもっともっとできることがあるという励ましにも思われた。

名古屋大学大学院 環境学研究科 地震火山研究センター

技術補佐員 川田 桂