第71回 名古屋大学防災アカデミー 2011年7月4日(月) 於:環境総合館レクチャーホール

 

東日本大震災の発生予測をめぐる諸問題

島 崎 邦 彦

東京大学名誉教授・地震予知連絡会会長
 

講師紹介

7月4日の防災アカデミーは、東京大学地震研究所名誉教授の島崎邦彦先生をお招きして開催いたします。

島崎先生は、地震予知連絡会会長や、政府の地震調査委員会長期評価部会長として、地震を予測して防災に役立てる仕事に長年専心されています。

東日本大震災以降、我が国の地震予測の総責任者として、今回の震災はどの程度予測されていたか、なぜ防災に活かすことができなかったかについて、様々な場でご発言されています。

今回のアカデミーでは「今後の地震予測と防災のあり方」を考えるための重要なメッセージをお話くださるものと思います。

講演のようす

会場の様子 島崎先生による講演
会場内は満席となりました。
参加者は199名でした。
ロビーにも会場内の様子を中継をしました。

参加者の感想

講演の主題は,巨大地震津波のメカニズムや将来予測の現状などの科学的知見から「想定外とマスメディア」「科学に隙あり」など科学と社会に関する話題にまで及んだ.地震津波研究の第一人者であり長期評価に貢献されてきた島崎先生からホットな話題を直接伺える機会とあって,会場には防災アカデミー史上最多となる約200名が駆けつけた.

最も記憶に残ったのは「地震(=断層の破壊)の初期段階は予測どおりであったものの,その後大きくひろがった」という解説である.3/11の地震では「宮城県沖」「三陸沖南部海溝寄り」(図1)で発生した破壊がやがて東側の「海溝寄りのプレート間」に伝播してMw9.0の巨大地震に発展したらしい.


図1 三陸沖北部から房総沖の評価対象領域(地震調査研究推進本部,2002)

地震調査研究本部による「三陸沖~房総沖における地震活動の長期評価」(2002)には,震源として「宮城県沖」「三陸沖南部海溝寄り」に加え「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間」がきちんと示されている.今回の断層運動の後半に,この「海溝寄りのプレート間」のうちの宮城県の沖合いを中心とする領域が大きく破壊したのである.

この大破壊について島崎先生は「きちんと防災施策に反映されてきていたら津波被害はかなりの程度低減できた」と述べた.しかし中央防災会議の被害想定(2004)ではこの大破壊の可能性が考慮されていない.その複雑な経緯に,島崎先生は詳しく言及された.

情報の精粗という「隙」,また今回の事象をあくまで「想定外」とするマスメディアの意図も含め,社会における科学の扱われ方と問題の一端をあらためて強調されたものと理解している.

その他の内容も興味深く,例えば,GPS波浪計や海底水圧計のデータが示され,今回の津波に長周期成分と短周期成分の両者が含まれていた点が紹介された.前者は平野部をひろく浸水させ,後者はリアス式海岸で約40 mにも達する要因になったらしい.869年貞観津波や1896年明治三陸津波との規模比較も含め,数多くの話題に触れることができた.

防災におけるひとつの鍵として「その土地で何が起こりうるか?」を理解し受容する重要性が挙げられる.われわれが想像力や判断力を試されていることをあらためて感じた.

名古屋大学地震火山・防災研究センター研究機関研究員

杉戸信彦