第63回 名古屋大学防災アカデミー 2010年10月14日(金) 於:環境総合館レクチャーホール

 

防災教育のフロンティア

矢 守 克 也

(京都大学防災研究所巨大災害研究センター 教授)

講師紹介

第63回名古屋大学防災アカデミーは、「防災教育のフロンティア」と題して、京都大学防災研究所巨大災害研究センターの矢守克也先生にご講演いただきます。

矢守先生は社会心理学、災害情報、防災教育などをご専門とされ、多種多様の学術論文、著書を執筆されてきました。特に、ゲーミングの手法を用いた災害時の意思決定訓練「クロスロード」は好評を博し、全国的に有名なグループワークの手法として住民に認識されるまでになりました。

突発的かつ大規模な自然災害の発生リスクが高まる中、次世代を担う子ども達への防災教育は極めて重要となります。しかし、自主防災活動への若年層の参加は少なく、自主防災組織員の高齢化が進んでいることも事実であり、若年層の参加を促す取組みが注目を集めています。若年層への防災意識・知識啓発を目的とした「学校防災教育」は全国で盛んに行われている一方で、その手法や継続に関する様々な問題を抱えていることも事実です。

防災活動を継続して実施されてきた矢守先生ならではの活動のヒントをお話くださるものと思います。ぜひ多くの方に聴講いただき、今後の学校防災教育、自主防災活動について考える機会としていただきたいと思います。

講演のようす

会場内の様子 講演される矢守先生
参加者は95名でした 質疑応答も活発に行われました

参加者の感想

矢守先生のお話は、具体的な話が多く、実務的な防災教育を行う場合にHow toとして非常に役に立つお話であったと感じました。しかし、私がより興味を持つのは、具体的な実践例ではなく、防災教育でのもう少し理論的な面です。

災害に関する知識として、科学的な知識と、民間伝承的知識であるローカルナレッジがあるように思われます。現代社会では、科学の発達により、災害に対する科学的な知識への信仰は厚い半面、ローカルナレッジが軽く扱われているように感じます。科学的な正確さ、厳密さはないにしろ、災害に対するローカルナレッジの効用は未だにあるように私は思います。

私が考える今後の防災教育の課題の1つ目として、災害に対する科学的知識とローカルナレッジの間をいかに埋めていくかが課題であると思います。つまり、科学的知識信仰が広まる現代社会の中に、いかにしてローカルナレッジを埋め込んでいくかが課題です。

2つ目の課題として、災害の知識をいかに次世代に受け継いでいくかという問題です。伝統的な知識、例えば、地域のしきたりや風習といった知識、実践と同様にして災害の知識が次世代に受け継がれていくものであるのかと言った検証から始まり、災害の知識の伝承は制度的な教育の中で行われることが効果的なのか、習慣として生活に根付かせることが効果的なのかを検討する必要があるように思われます。

矢守先生の防災教育の理論的な面をよりお聞きしたいと思う講演でした。

大学院環境学研究科 地理学専攻M1 畠山和也