第61回 名古屋大学防災アカデミー 2010年7月21日(水) 於:環境総合館レクチャーホール

東海豪雨から10年

何が課題だったのか 何が克服されたのか 
そしてなお、何が課題か?

辻 本 哲 郎

(名古屋大学大学院工学研究科 教授)

講師紹介

第61回名古屋大学防災アカデミーは、この地を襲った10年前の東海豪雨を振りかえって、名古屋大学工学研究科の辻本哲郎先生にご講演いただきます。

辻本先生は河川の土砂移動や洪水等、自然のメカニズムを解明して、河川と共生して安全・快適に暮らすための「水工学」がご専門です。河川内の土砂移動から流域の生物多様性に至るまで、総合的にご研究になる中で、治水・水防災の問題にも積極的に取り組まれています。数年前から「水防災セミナー」という企画も立ち上げ、今後のあり方について議論するための人の輪づくりも手がけられています。東海豪雨では土木学会の調査団長を務められ、またハリケーンカトリーナの調査団にも加わられています。

今回は、こうした豊富なご経験と幅広い視野から、東海豪雨10年目にあたり、今後の水防災への課題を整理してくださるものと思います。

講演のようす

会場内の様子 講演される辻本先生
参加者は165名、会場は満席となりました 会場内の様子をロビーに中継しました

参加者の感想

東海豪雨から早くも10年。辻本先生のお話で、あらためてあの災害の大きさを思い知らされました。私も記者として当時は取材に当たっていましたが、現場にいると全体像は見えずに、目の前の被害の実態を記録にとどめ、伝える作業に終始していました。

都市水害がひとつのキーワードとのまとめに納得です。大都市がこうむる被害の大きさは、家財の被害が多かったという一言でも十分に理解できました。あれから10年、この間にも私たちは何回もの豪雨を経験してきましたが、おなじような被害が繰り返されてきました。この豪雨にいかに対応するのか、名古屋のインフラを1時間50ミリ対応から60ミリ対応にするだけでもその大変な作業かも思いやられます。河川の改修の大変さはさらなるものです。莫大な費用を持って水害を防ぐことができる社会にするのか、この財政難の時代に進むべき道は、住民も納得して進路を示していくこと(合意していくこと)の重要性を思い知りました。

それにしても思うのは、かつて日本人は自ら水害やそのほかの災害に対処する“すべ”を持っていたと思うのですが、いつのまにか「人任せ」の災害対応に変わってしまっています。住んではいけない所には住まなかった日本人の知恵はどこにいってしまったのか・・・災害に対するイメージも構築できない人には、災害を自ら避ける知恵はあるはずがない。いざというときのすべを知らない人は、自らの命を守るための対応もできるはずがない。インフラ整備の重要さもさることながら、こうした人間の知恵を取り戻す作業が、これからの災害対応の中心になるべきではないだろうかとの思いをはせながら、お話を伺いました。

中京テレビ報道部 武居信介