第58回 防災アカデミー
「音で探る海溝型地震」
講演者
田所敬一(名古屋大学大学院環境学研究科准教授)
紹介
 
 今回の防災アカデミーは、名古屋大学大学院環境学研究科地震火山・防災研究センターの田所敬一先生による「音で探る海溝型地震」です。 田所先生は、東海地震や東南海地震の震源となる南海トラフの海底において、精密な地殻変動観測を目指しておられます。田所先生の弁によれば、海底の地殻変動観測にはそもそも道具(観測機器・システム)がないため、道具作りから始めたとのこと。最近では、完成させた機器を熊野灘と駿河湾に設置して、頻繁に測定を繰り返して「監視」されています。 来たるべき大地震に向けて、地震発生の仕組みの解明や地震予知に大きな期待が寄せられています。今回は、道具の開発から繰り返し観測のための航海に至るまでの貴重なお話しをお聞かせいただけるものと思います。

参加者の感想
 

『防災アカデミーを聴講して』
 次の南海トラフの巨大地震が近づいておりその対策が必要であることがマスメディアなどによって叫ばれるようになって久しい。今回の田所先生のご発表は科学者がどのようにそれに立ち向かっているのかをわかりやすく説明してくださり、その研究成果が南海地震の予知や予測に大きく貢献し我々を守ってくれることを我々に予感させてくれた。ご発表の中でまず田所先生は我々がテレビなどで見るGPSで測られた日本列島の変形や南海地震発生時の強震動予測が、実は予測をする上で最も重要な震源近くの海底におけるデータが不十分であることを示され、次にそれに対する先生のご研究の原理と方法を説明し、その難しさと苦労話、成功した具体例をわかりやすく話してくださった。GPSなどで使われるような電波などはその波が水中で減衰してしまうために海底の位置を特定するためには音波を使うことになる。
 

 

 

 田所先生のグループは競艇場などで沈めたセンサーと水面との交信から位置を測量する実験をくり返しながら、10年以上をかけて、海底に沈めた音波を発信受信するステーションと海上の船との交信から数センチの精度で海底における位置を測量することに成功した。その経緯やいよいよ設置した熊野沖と駿河湾で地震が発生し、その二つの地震の地震によって生じたずれを計測することに初めて成功したときの興奮など、こちらも引き込まれる思いで聞かせていただいた。「音」という我々の身近な現象を操りながら、一般人にはどこか遠くおどろおどろしい「海溝型地震」に立ち向かう課程はまさに科学の醍醐味を実感させ、多くの受講者が興奮して聞くことが出来たのではないかと思う。田所先生によれば、この観測方法などを整備することで地震の前兆現象を捉えることも可能になるかもしれないといい、今後の研究の発展に注視していきたいと思った。最初、プロジェクターの不調などのアクシデントがあったものの田所先生のお話は、一部難解な内容であったにも関わらず、先生の軽快な関西弁がそれを中和し、会場は新たな知識を得た満足で満ちていたことも付記しておきたい。 
 

松多 信尚
(地震火山防災研究センター研究員)

 

次回予告

 第59回防災アカデミー

 「モシモの時、地域は?そのためにイツモ防災を!」

 講演:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科教授)

 日時:2010年5月24日(月) 18:00-19:30

 場所:環境総合館1階レクチャーホール

写真撮影:稲吉直子