第56回 防災アカデミー
伝え手から見た阪神淡路大震災15年
−神戸はどう変わったか−
講演者
磯辺康子(神戸新聞社)
紹介
 この1月17日で、阪神淡路大震災から15年になります。
 磯辺さんは、この震災以降、地元神戸の復興の過程を見守り、街の変化や人々の気持ちにじっくりと相対した報道をされてきました。また、その後も国内外で多数の災害の報道も続けられ、地域の災害と復興の状況を伝えてこられました。関連する著書やご講演も多数あり、日本災害復興学会の理事も務められています。
 そのようなご経験に基づき、地元メディアのきめ細かな視点から、神戸の15年の歩みとこれから、そしてより広く災害と復興に関するお話が伺えるものと思います。

参加者の感想
 

 15年後の「1・17」。特別な節目に私も神戸を訪れ、さまざまな追悼式典や復興イベントに参加していた。前夜、神戸市内のホテルでつけたテレビで放映されていたのは「神戸新聞の7日間」というドラマ。被災した本社で読者のために新聞をつくり続けた記者たちの闘いを描いたドラマだった。人気アイドルを主役に据えたキャスティングには賛否あったようだが、当事者のインタビューも交えた内容は真に迫り、感動を誘った。
 それから3日後。あの神戸から、しかも神戸新聞社の看板を背負って名古屋まで来られたのが磯辺康子さんだ。いやがおうにも期待は高まる。あふれんばかりに会場を埋めた参加者の多くは、あのドラマとダブらせながら磯辺さんの話に耳を傾けていたのかもしれない。
 磯辺さんが実際に執筆された新聞記事を元に浮かび上がらせる「神戸の15年」は、やはり重いものだった。地震発生から9日後の紙面を埋め尽くした死亡者の名簿。罹災証明を求める被災者の不安な表情をとらえた写真。「直接死」「関連死」「独居死」、そして自ら命を絶つ人たち…。こうした現実にひたすら向き合い続け、伝え続けた磯辺さんの仕事は、まさにドラマを超えた尊さを感じさせた。
 一方で、メディアとしての反省点を会場から聞かれ、「倒壊するような会社をつくってしまったこと」と真っ正直に話された。「被害情報が多すぎた。死者何千人という情報が被災地の中の人にどれだけ意味を持ったか。この地域は無事だなどという安心情報も必要だったのでは」−。
 元新聞記者の私としては、この辺りからがぜん掘り下げた話をうかがいたかった。しかし残念ながら時間切れ。その意味では物足りなさも残ってしまったのが正直なところ。「次」の機会を願って会場を後にした。

関口威人
 (ジャーナリスト、NPO法人レスキューストックヤードスタッフ)

 

 震災がどのような災害で、震災から15年間、神戸がどのように変わっていったのか。
 地元の新聞記者として取材してきたこと、自ら被災者として体験したことなどを映像と写真を交え、本音の部分で語っていただいた。
 これにより、被災から復興までの具体的なイメージをある程度持つことができた。
 また、震災は都市部の高齢者を襲った災害として特徴づけられ、震災直後よりも何年にもわたる再建の方が大変であること。そして、今の中学2年生以下は震災後に生まれた子どもたちであり、今後一層の風化が心配され、震災の知恵をどう伝えていくかが課題であることなど、改めて気付かされることも多かった。
 ここ東海地区は、今世紀前半に東南海・南海地震が発生する可能性が高いとされているが、今回、神戸での震災の教訓がどのように伝わったのであろうか。
 当セミナーが終わり、地下鉄の駅へ向かって帰る途中、講演の感想や地域での防災対策について熱心に話し合っているセミナー参加者の声が多々聞こえてきた。
 人により受け止め方は様々だとは思うが、その声を聞いただけでも、それぞれの参加者に教訓が伝わり、良い講演であったことを感じさせた。

松本澄之
 (人と防災未来センター、研究調査員/鳥取県防災局、主幹)


 想定していないことが起こるのが地震である、と語った磯辺さんは阪神淡路大震災を映像や音声を交えて、とてもリアルに伝えてくださった。中でも、レスキュー隊が家屋に埋もれて首しか出ていない被災者を救出している映像をみて身の毛もよだつ思いがした。意外だった事実は、被災地を離れた被災者の中で、再び被災地に戻ってくる被災者が多かったことである。災害を知らない身内と過ごすより、被災地で同じ境遇を共にした他人と過ごすことを求める被災者が多かった、と聞くと、この気持ちは被災者本人にしか分からないことなのだろう、と思う。被災者の行動からも震災が与えた傷の深さをみることができた。私は会社の中で災害対策に取り組んでいる。今回みせていただいた映像や話から受け取った恐怖は想像上の恐怖でしかない。東海・東南海地震の現在あげられている被害想定も、想定でしかない。想定していないことが起こるのが地震である、と磯辺さんに伝えられて、改めて防災対策を考えることの難しさを実感した。
 磯辺さん、貴重なお話をありがとうございました。

田中皓子(メーカー勤務 防災対策担当)

次回予告

 第57回防災アカデミー

 「災害は短く、その恵みは長い:災害観再考」

 講演:田中重好(名古屋大学大学院環境学研究科教授)

 日時:2010年2月4日(木)18:00〜19:30

 場所:環境総合館1階レクチャーホール

 次回の名古屋大学防災アカデミーでは、本学環境学研究科の田中重好教授にご講演いただきます。ご専門は社会学で、「地域交通」、「地方自治」、「まちづくり・地域の活性化対策」「コミュニティと地域住民組織」などをテーマとして研究を進めていらっしゃいます。また「地域的共同性」というの観点から、災害問題にも取り組まれ、2004年スマトラ沖地震後には、環境学研究科の調査団の一員としてインドネシアの被災地へ赴かれ、その後も継続的に復旧・復興の問題に取り組まれています。その成果は『巨大地震がやってきた』(2006年、時事通信)にも記されています。今回のご講演のタイトルは、こうした大規模災害の問題と深く関わられた田中先生ならではの「防災観再考」。是非そのお考えを拝聴できればと思っております。年度末のご多用の折とは思われますが、多数の方々にお集まりいただければ幸いに存じます。
写真撮影:鈴木慎平/石黒聡士