名古屋大学防災アカデミー

第47回 「多文化共生社会と防災」

講師: 岡本 耕平 (名古屋大学大学院環境学研究科教授)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2009年2月27日(金)18:00-19:30



外国人向け防災活動の一例として各市町村が作成している多国語パンフレットを挙げ、
多文化が共生する場合に、防災という観点から心がけるべきことについてお話いただきました。

岡本耕平先生。

今回の出席者は62名でした。
写真撮影:畠山和也

セミナーに参加しての感想

 今回の講演では、外国人向けの防災の多くの問題点や解決のための取り組みを知ることが出来ました。その中でも特に、作成したハザードマップを配布することが困難であるという問題が印象的でした、その背景として、外国人が日本で暮らすためのシステムが不十分である点が指摘されました。これは防災の問題に留まらず、今後外国人が日本で生活していく上で整備されなければならない事項であると感じました。また,講演中に紹介された「多言語翻訳システム」も生活情報と防災情報を併せて扱っていることで成果を上げていることから、生活と防災は非常に密接な結びつきを持つことがわかりました。防災を行っていく上で、日常生活と防災を別物として扱うのではなく、一体のものとして扱う姿勢が重要であると感じました。
 講演の最後には、幼稚園・保育園を通じた防災教育が紹介されましたが、私は日本人に対する防災教育にも応用できるのではないかと感じました。通常、日本人住民向けのハザードマップは広報などとともに自治体から配布されますが、幼稚園・小中学校の配布物とともにハザードマップを手渡すことで、子どもの親に対してより、防災の働きかけが出来ると考えられます。外国人向けはもちろん、日本人向けのハザードマップの作成も緒についたばかりのため、今後さらに改善を行う必要があると感じました。

林 奈津子 (環境学研究科・大学院生)

今回の防災アカデミーでは,「多文化共生社会と防災」というテーマでお話をいただいた.まず始めに,話の前提となる「日本社会における移民の重要性」と「日本社会における移民の位置づけ」について,「多文化共生」という言葉を介しながら理解することができた.長期的視点から日本社会を捉えた時,移民の受け入れは必須であり,その中で移民,つまり外国人を含めた「防災」を考えなければならない.例えば,私自身,地元の防災訓練で外国人を見かけたことはない.外国人も含めて防災訓練を行なうとするならば,各国の言語で内容を説明し,実践する人が必要となる.国や市レベルで外国人を含めて防災を考える必要性が主張されていても,それを実行する自治体(町内会等)のレベルで,その意識が高まっているのかどうかは疑問である.また現実的な実行可能性も,高いとは言えないと考える.今回の防災アカデミーで議論されたことを,どのように町内会レベルに落としていくのか,ということが一つの大きな課題であると感じた.
 また,より根本的な問題として,外国人自身の防災に対する意識を高める必要があると考える.「外国人に対してどのように情報を提供していくのか?」という質問が出ていたが,私も外国人(特にブラジル人)は勉強会などの機会を設けても,集まりにくいという話を聞いたことがある.また,パンフレットのような紙面にして渡しても,ブラジル人は「文字を読むのが好きではない」という話を,日系ブラジル人支援を行なっている日系2世の方から聞いたことがある.その方は,SNSのようなネット上でメール等を介して,重要な情報を直接的に伝えていく方法が有効であると話していた.情報の伝え方を今後も検討する必要があるのではないかと思った.
清水 沙耶香(環境学研究科・大学院生)

 このたび防災アカデミーに初めて出席させていただきましたが,ニュースや広報とは異なる視点から防災について考えるよい機会となり,大きな感銘を受けました。
 そもそも今回の講演を聴く前は,自然災害(特に地震)がどれだけ恐ろしいか,そしてどのような対策をとればよいか,ということは子供の頃から学校や地域を通じて再三教えられてきたことであり,今さら防災について特に学ぶことなどないというのが正直な気持ちでした。おそらくこれは私に限らず,「地震大国」と言われる日本に住む人の多くが思っていることでしょう。
 しかし,思い込みともいえるこの考えこそが大きな問題でした。
 今回の講演において,我々日本人の多くが「当たり前」と思っている防災訓練や避難場所の知識は,日本に来た外国人の方にとっては必ずしも「当たり前」とは言えず,またその場合その知識を伝えることが如何に難しいことであるかを知ったからです。
 私の職場である大学は外国人の方が多いため,いざ災害が発生すれば,そのような方々に情報を伝達しなければならない立場にあります。そうなった場合に,今回の講演で得た知識を生かして,―具体的には「よい例」として紹介された自治体のハザードマップのように,たとえ言葉が十分に通じずとも,相手の気持ちやその背景にある文化に配慮して―,最低限の役割を担えるよう努めたいと思います。
 貴重なお話をお聞かせいただき,誠にありがとうございました。
横江 圭介 (名古屋大学総務部人事労務課)



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