名古屋大学防災アカデミー

第40回 「原発と地震 ―新潟県中越沖地震の教訓―」

講師: 入倉 孝次郎 (愛知工業大学客員教授/京都大学名誉教授)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2008年6月16日(月)18:00-19:30



原発の地震対策をこれからどのようにすすめるべきかについて建設的な話がなされました。

入倉孝次郎教授。

今回の出席者は118名でした。
写真撮影:稲吉直子

セミナーに参加しての感想

 私の暮らす名古屋市には原発がない。正直、原子力発電所の問題は、対岸の火 事のように考えていた。大地震で発電所が被害を受けたら、停電してしまうから、 仕事に行かなくても良いではないか。などと本音は言えないが、自分にとって致 命的な問題とは考えていなかった。
 ところが、なんとも、さすがは入倉先生のご講演だった。はじめの「震源断層 を特定した地震動予測の必要性」の説明について、私はすっかり納得してしまい、 続く「設計審査指針の改訂」についても大変に勉強した気分にさせていただいた。 確かに、確定論的な設計=活断層が必ず動くという前提の設計は、安全性を追求 したという点において、素人にも大変説得力がある。
 一方で、設計の前提のさらに前提となる、活断層の在処について、新たに疑問 と興味を持つようになってしまった。論理的な設計の拠り所となるのは、やはり 信頼できるデータ(どこに、どんな活断層があるか)であり、必要なのはデータ を得るための調査・観測なのだと、勝手に今後の展望を描いてしまう。それほど 入倉先生のご講演は引きつけるものがあり、今までさして興味の無かった活断層 調査の分野にも、目を向けるきっかけを与えていただいた。
倉田和己(株式会社ファルコン)

 「原発と地震」というテーマは私にとってたいへん話しにくいテーマだが、と いう口上から始まったこの防災講話、“庶民にとって身近にあるようで遠い存在 の原発”、言葉のイメージからたぶん難しいお話だろうと思っていたが、案の定、 専門的な内容も多く理解しきれない部分もありました。
 しかし、兵庫県南部地震や中越沖地震が我々に何を教訓として教え、問題提起 してきたか、原発の耐震設計審査指針をどう考えたらよいかを端的に整理され、 理解を深めることができました。私も柏崎を訪問し、中越沖地震の被害を目にし ているので親しみながら拝聴することができました。なんでこんな所に地震が発 生したの? といわれる兵庫南部地震や中越沖地震、今回発生した岩手宮城地震 などすべて想定外の地震、被害の大きさも、教訓もそれぞれ異なる。今後、この ような地震に対して原発施設は、どのように備えたら良いのだろうか?
 中越沖地震では原子炉施設に大きな被害がなかったものの、岩盤の指示がない 一般構造施設の周りの被害は甚大であった。すべて想定外、対策して大丈夫と思 っていてもその周りの周辺に大きな被害が常に発生する。先生が使われた「バッ クチェック」、「第3者によるクロスチェック」、想定外の振動に襲われる可能性 に対し、常に「残余のリスクを限りなく小さくしていく」という言葉が、キーワ ードとして特に印象に残りました。今後の地震で原発施設の被害が軽微であるこ とを祈りたいと思います。
山下克昭(刈谷防災リーダー会・刈谷防災ボランティア)

テーマ[1] 原発と地震
 耐震設計審査の関連 S53年と56年(静的地震力等の見直し)、 耐震安全性の評価(バックチェック)を含む内容の改訂(H18年9月)に関心を 傾けました。
 稼働中の原発は、改良・補強は全うできるでしょうか。(82.2万kwの柏崎刈羽原 発は、7基とも定期点検中)
 地中は、証されていない。地球観測衛星「だいち」を含む衛星もまだまだ、なん とかもう少し地殻・マントル変動を事前に予測・予知手法はないものでしょうか。
連想。改訂H18年を推し進めつつ、H19.7.16 10:13頃(中越沖地震 M6.8  993ガル観測)のデーターに安全率を加えて再検討された場合、国内で原発が立地可能 な場所はどの地域に存在しましようや・・! その前に、稼働中の原発では補強不能 なところもあるのでは・・・??
計器資料に推論を加え、さらに安全率の積み増しなどなど論議争中。生活・職場への 交通・照明に原発なしには成り立たない。協調線・妥協点はどこに・・
テーマ[2] 2008年6月14日 岩手・宮城内陸地震の速報
 速報を聴きつつ描いた。
 災害直後。道路・水道・電気と国内災害の第一次課題。都会と異なり食べ物は直ぐ に困らない。水も街中の状況に比し少し緩やか。だだ、高齢者の医務的な対策は同じ。 山が荒れれば、海までも影響が。地形・地質的な事由のみで、避けられない問題・課 題は・・・山積。
 人が入らない山は荒れている。いにしえの「柴刈り」の必要性も一考察。どんな経 緯で谷が牙を剥き絶壁の谷を造るのか。「なまずくん」と棲み分けは。
 まちの若人にお願い!!  山へ入り、「心とからだを癒しましょう。そのお礼は 枝打ち・柴刈りで。」 私も7月30日に南木曽「南蘭国有林」へ植栽地の手入れに 出向く予定。
増田 武(あいち防災リーダー会)

 入倉先生の今回の講演は、大変高い関心の集まる中で行われた。新潟県中越沖地震 による柏崎原発の停止は新聞やテレビのニュースを賑わせ、現在でも数多く取り上げ られているのをよく目にする。活断層の上に原発が建設され、地震で倒壊するような ことは絶対にあってはならないことだ。この面で、アースサイエンスが社会から寄せ られる期待も非常に大きいであろう。私も例外ではなく、地震大国日本では原発には どの程度の対策が必要なのか、また今現在は安心なのか大変関心があった。今回、入 倉先生のお話を聞くことができて、大変良い時間を過ごすことができたと思う。
 本講演では、新潟県中越沖地震の際の活断層地震の強震動が柏崎原発にどの程度の 破壊をもたらすのかさまざまに調査し、その知見から将来の地震動をどのように予測 するかが解説され、耐震安全の新指針とその必要性が示された。入倉先生の研究成果 では特に、強震動が起こったときのシミュレーション結果が印象的であった。予測さ れる地震の加速度や波の到来方向,地盤の強度による地震波の減衰の様子といった多 くの不確定要因の中で、強震動計算のレシピを確立されたのは大変意義深いと思う。
 活断層地震という非常に長いスケールの現象に対する災害対策は難しい問題だ。し かしそれをモデルシミュレーションやバックグラウンドからの情報を最大限に引き出 して予測し「耐震安心」を得ることは、我々の社会において何よりも重要なことであ る。入倉先生のように防災とサイエンスが相互作用して、より安心な社会つくること の重要性を改めて感じた。
 今回このようにすばらしい講演をしてくださった入倉先生に感謝いたします。あり がとうございました。
朝日友香(環境学研究科地球環境科学専攻M1)

 兵庫県南部地震の話に始まり、地震の強震動予測、そして原発における耐震設計指針 の話題だった。これまでの防災アカデミーの中では、比較的専門的な内容の深い話だっ たと思う。
 聴衆からの質問では、地震動についての基本的な質問が出るなど、まだ地震動と建物 被害との関係性について、一般に誤解があるということが感じられた。それは、私が建 築について学んできた中でも感じたことでもあった。工学系の中でも特に実生活に近い 問題を扱っていながら、経済的な問題など周辺環境で研究成果が生かせない時がある。 また、地震についてはまだ研究途上であることも、その誤解を生んでいるひとつの原因 だろう。
 先日発生した、岩手・宮城内陸地震についての言及もあった。新聞などでは、ぞくぞ くと新たな分析結果が出てきている。地震・防災分野は、他分野以上に一般に向けての 説明責任があるだろう。入倉先生の発言の中にも、「これまで起きた地震の説明はでき た」ということがあった。防災に関しては、起こってからの話をしていてはいけない。 今後発生するであろう地震による被害を少しでも抑えるため、より進んだ研究を期待し たい。
西村 健(環境学研究科地球環境科学専攻M2/震災ガーディアンズ)

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