名古屋大学防災アカデミー

第36回 「ひずみ集中帯 〜内陸大地震の謎を解き明かす鍵?〜」

講師: 鷺谷 威 (名古屋大学環境学研究科教授)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2008年1月10日(木)18:00-19:30



114名という多数の参加をいただきました。

名古屋大学・鷺谷威教授。

専門的な内容についての質疑応答もありました。
写真撮影:稲吉直子

セミナーに参加しての感想

 鷺谷先生のGPSによる観測から、神戸付近から新潟付近にかけて帯状に広がる地域では、 周囲に比べて数倍もひずみが集中しているという記事を2005年3月号のニュートンで拝見 した時は驚きました。そして地震を取り巻く科学観測網の精度向上を知り、その時から先 生の講演を拝聴したく思っておりました。その後の中越沖地震で日本海東縁ひずみ集中帯 が広く報道されるに至り、ひずみ集中帯研究の嚆矢の先生から直接教えて頂きたいと待望 致しておりました。今回、その思いが叶えられ、名大防災アカデミーの関係者の方々に深 く感謝申し上げます。
 さて、二つのひずみ帯のうち愛知県北部に住む私は新潟−神戸ひずみ集中帯の挙動がと ても気に掛っております。かつて1891年の濃尾地震では愛知県も大きな被害を蒙っており、 近くは兵庫県南部地震、中越地震・中越沖地震と新潟−神戸ひずみ集中帯の両端で大地震 が起こっており、先生のお話では養老断層もひずみ集中帯に掛っているということで、な お心配です。加えてひずみ集中帯のひずみの速度はそれ以外の地域の10倍の速さで、更に 内陸大地震の発生は時空的相関がみられるとのこと、愛知県に連なるどこかの断層で大地 震が発生すればすぐにも連動し大地震が発生するのではと危惧しております。
 日本海東縁ひずみ集中帯での1983年日本海中部地震 1993年北海道南西沖地震を例に空 白域の存在を教示いただきましたが、先生の研究が更に進み、ひずみ集中帯の構造やひず みの速度等がより詳しく解明され、その結果として私達の一番の願いである確率の高い地 震の予知へと導いて頂くことを期待しております。
 今回の防災アカデミーは私には少し難しく感じましたが、頂いた資料を帰宅してから読 み返し、理解を深めることが出来ました。長時間に亘り貴重なお話を有難う御座いました。
古谷 順彦(小牧防災リーダー会・副会長)

 今回の講演では、最近メディアを介してよく聞くようになってきた、「ひずみ集 中帯」について、その基本的な知識から先端的な知見にいたるまで、実に興味深 いデータが紹介された。講演者の会場への問いかけから、三分の二程度の人が、 すでに「ひずみ集中帯」という言葉をどこかで聞いたことがあると答えたことか らも、その注目ぶりがうかがえる。
 まず、議論になっているひずみのオーダーに驚いた。十億分の一のひずみを計 測できるひずみ計のほか、GPSによる計測では広域的な歪を高精度、高密度に捉 えることができる。これらは、地殻変動を計測する技術が近年飛躍的に向上した ために実現したのではないか思う。しかし一方で、過去100年の三角測量の結果 とGPSによる精密な計測結果が同じ傾向示すことから、過去の三角測量の正確さ も、特筆すべき事柄であると思った。
 次に、ひずみ集中帯と実際に発生している地震との相関について、講演の中で も示されたように、ひずみ集中帯以外でも地震は発生し、しかも発生には偏り、 あるいは連鎖的に発生することも示唆されていることから、ひずみ集中帯との相 関が高くないという見方もある。ひずみ集中帯と比較的活動が活発な活断層があ る場所が必ずしも一致しないように見えることからも、精密な地殻変動計測に よって得られた「ひずみが集中帯」が、何を意味しているのか、今後もさらに注 目していく必要があると思う。
石黒 聡士(名古屋大学環境学研究科地理学専攻・D2)

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