名古屋大学防災アカデミー

第24回 「情報と地震防災」

講師: 中村 豊(株式会社システムアンドデータリサーチ・代表取締役)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2006年11月10日(金)17:30-19:00



中村豊先生。

今回の出席者は46名でした。

地震情報を社会にいかすために何が必要かという視点からの活発な質疑応答が行われました。

セミナーに参加しての感想

「情報で地震による破壊を免れるのか?」
 情報そのものに構造物の地震による破壊を食い止める力が無いのは明白 であるが、如何にこの情報を生かして次の行動に繋げて減災を図るかに その価値を見いだすことが出来る。その具体的な取り組みが構造物の耐 震対策であり、緊急地震速報等の事前防災情報の活用がこれに当たると 言えるであろう。
 発展途上国などの地震対応のほとんどが発災直後の救助であるのに対し て、先進国のそれは事前対策として建物や構造物の耐震性の向上や避難訓 練等による減災が図られているということである。いざという時の対応力 の向上により、地震が来た時にはすばやく対応出来るようになれれば確か に良いが、なかなかそこまでは難しい。落ち着いて行動出来るという事だ けでも効果が大きい事は十分に理解できる。
 これらの事前対策を可能にするには、個々の地盤や建物の「地震被災危 険度指数=K値」を調査し対策を立案し対策を確実に実施することや、最 新の知見を取り入れた緊急地震速報等の活用やオンサイト地震計の導入が 大きな役割をはたすであろう。
 また、落ち着いて行動出来るという事は、この情報を得た時にはこれを すると決めておくことが重要である。私自身の事として、そんなこんなの 積み重ねが防災対策として生かされて、次の東海・東南海・南海地震が起 こったときには、この情報を生かしてこんな行動・対策が出来て被害が少 なく済んだと言えるように、今後も取り組んで行きたいと考える。そういっ た意味で大変参考になった。
高橋正(中部電力株式会社)

 地震被災危険度指標(K値)による危険度が高い部分の解析法及び 地震動早期検知警報システムでのオンサイト警報の有効性・重要性 など非常にわかりやすく勉強となった。
 地震被害危険度指標(K値)については、非常に有効性が高いと感 じ、例えば中部圏に多い製造業などで、大きな敷地を持った企業に おいてこのK値を活用し、耐震補強や揺れに対する対策などを何処 に重点を置いて打つべきかの判断に有効活用できるのではないか、 また、拠点が分散している企業において、話題となりつつあるBC (事業継続)を考えるうえでのバックアップサイトの設定にも役立 てられる様に感じた。
 地震動早期検知警報システムでのオンサイト警報については、新潟 の小地谷での救出活動現場での活用やオンサイトでの警報発信の重 要性などが理解でき、気象庁が配信する緊急地震速報との合わせ技 もしくは設置場所における警報発令の早さから、場所によっては緊 急地震速報よりもこの地震動早期検知警報システムの方が有効活用 できるのではないかと感じた。
森本宏(株式会社中電シーティーアイ)

 インターネットなどの普及によって情報化社会となっている現代に おいて、その「情報」をいかにうまく使うが問われている。ただ、情 報がひとり歩きしても何の役にも立たないわけで、その情報に基づい て行動することによって初めて意味を成す。実際、地震のような災害 が起きたときを日頃からイメージしておき、その対処法を考えること が防災の第一歩である。そのようにして災害発生前に心構えを作り、 対処法を知ることで、不意にして災害に遭遇しても被害が軽減できる のだと思う。
 中村さんは地震防災の情報として「耐震性能」、「地震情報」の2 点を中心にお話をされ、その具体的な応用例の一つとして2004年10月 に発生した新潟県中越地震による新幹線の脱線事故のメカニズムにつ いても言及された。常時微動を用いて地盤と構造物の特性を推定する 手法によって見出された弱点箇所が、地震後の建物の倒壊率の高い場 所や被害状況とよく一致するという結果が出され、将来起こるであろ う地震の前にこのような調査をやることの重要性を強く感じた。やは り事前調査によって弱い箇所を見つけ、耐震設計などの対策をするこ とが必要なのである。また、地震情報という点では、余震が続くなか で救助作業に従事するレスキュー隊員の安全確保に地震早期警報シス テムが使われた例が紹介され、この種の警報システムの役割が大きく なっていることを実感した。また、一般家庭でも使えるくらいの小さ く安価なデジタル警報強震計AcCo(アッコ)も開発されており、近い将 来、一家に一台、地震早期警報システムがあるという時代がやってく るのではないかという気持ちになった。
 警報が発生された時にあわてるのではなく、逆にゆとりをもてるく らいに地震前の対策(避難のシミュレーション、家族での話し合い、防 災グッズの導入、耐震工事など)をしっかり行うことが必要である。そ れによって、警報システムのもたらす「情報」が十分に活用されるよう になることを改めて考えさせられた。
石川渓太(環境学研究科地球環境科学専攻,M1)

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