名古屋大学防災アカデミー

第2回 「現在と未来の強震動−地震動の観測と予測−」

講師: 藤原 広行 (防災科学技術研究所プロジェクトディレクター)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2004年6月1日(火)13:30-16:10

 防災科学技術研究所で強震動観測(K−NET・KiK−net)と地震動予測地図 作成という2つのビックプロジェクトのリーダーとして活躍されている藤原広行さんを お招きして、「現在と未来の強震動」について話していただきました。今回は、環境学 研究科の大学院生向け講義「地域防災計画」に相乗りする形でセミナーを開催したため、 外部の人は参加しにくい昼の時間となりましたが、大学院講義・防災アカデミー合計で 57人の方が会場に集まりました。




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独立行政法人・防災科学技術研究所の藤原広行プロジェクトディレクター。 藤原さんは地震動予測地図作成の研究と、K-NET・KiK-netの管理運営の両面で責任者として活躍しておられます。


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会場の様子。今回は大学院講義に相乗りして開催したため、会場は若い学生を 中心に埋まりまでした。


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本日から波形即時公開が始まったK-NET02についての説明もありました。





セミナーに参加しての感想

 「地震動の観測」と「地震動予測地図」の2本立てでお話を頂いた。前半の 「地震動の観測」に関しては、防災科学技術研究所で運用されているK-NET などの紹介をして頂いた。K-NETと言えば,地震動(特に地盤の揺れ)を研 究している人たちにとっては、非常に有益なデータを即座に公開してくれる 大変ありがたいシステムである。昨年の5/26、7/26、9/26の地震の時にも、 地震記録を即座に入手して少し分析するだけで、どの様な地震だったのか? 建物被害との揺れの関係は?など多くのことを知ると共に、自分たちの地区 でこの様な地震が起こったらどうなるのか?という想像力を働かせる元とも なった。しかし、K-NETのデータを利用していても、このシステムが作られた 背景や、膨大なシステムがごく少人数で管理・運用されていること、運用開始 後8年が経過して現れてきた問題に対して改良されつつあること等、今まで知 らなかったことを盛りだくさんお話しして下さったので、非常に興味深かった。
 後半の「地震動予測地図」は、専門的な内容が随所に入っていた上に、あ まり馴染みのない確率論まで登場したので、一般人にはかなり難しい内容で あったかも知れない。しかし、地震動予測地図を作ることにより、一般の人 たちへ地震危険度を分かりやすく示すことは、防災上、非常に重要なことで ある。今後、地震動予測地図を元に、各地域で地震ハザードマップのような モノが作られていくと思うが、それらも地震動予測地図と同様に、どの様に 解釈するのか?どの様に説明していくのか?どの様にたくさんの人に知って 貰うのか?が最も重要な課題なのだと改めて感じた。同時に、防災に関する 新しい情報を的確に広めるという役割を、行政や大学組織だけでなく、大学 生・大学院生が担えられれば、この地域の防災力は格段に上がっていくだろ うなと思った。
小島 宏章 (環境学研究科都市環境学専攻・D3)


 情報を伝達する際にはその内容が薄れたり、捻じ曲げられたりする危険 性を伴う。そのような意味では、新聞やテレビなどのマスメディアを極力 仲介することなく、専門家から直接市民に届けられるリアルタイムの情報 は、たいへん有力である。
 兵庫県南部地震や鳥取県西部地震で被災された方は、近年危惧されてい る東海・東南海地震に対しても、高い意識をもって対策を進行している。 しかし、私を含めて一度も巨大地震を経験したことのない者が、どれだけ 真剣に対策を推し進められるのだろうか?意識レベルが高く国の防災計画 を立案する専門家、与えられた情報を鵜呑みにしてお役所仕事として観測・ データ処理を行う研究者、全く知識のない市民、この3者のギャップをど のようにして埋めて行くかが課題である。
 地震に対する危険度を数値で示すのではなく、地震動予測地図として視 覚化して示すほうが市民にとって感覚的に理解しやすい。しかし、市民に とって単なる「カラフルな地図」で終わってしまうのはもったいないこと なので、さらにもう一歩踏み込んで、地震に対する危機感を抱かせるよう な地図作りを、情報の発信側の方々に進めていただけるとよい。一方で、 情報の受信側の我々は、情報を疑ったり自ら信憑性を確認したりするくら いの関心を持つように努めなければならない。
井上 圭人 (環境学研究科都市環境学専攻・M2)


 藤原さんの講演では、強震動観測と地震動予測地図について学ぶ事がで きた。地震の研究は経験によるものが多く、データの収集が不可欠である。 充実した地震観測網によって経験を詳細に記録することは将来の地震予知、 防災のために非常に重要である。私達学生の耳にも親しみのある強震動観 測網K-net。恥ずかしながら私はその整備が最近、兵庫県南部沖地震以降に 進められた事を知らなかった。昔からあったかと錯覚するくらいに利用さ れているからである。1995年1月17日に地震が起き、翌年1996年の6月3日に は運用開始と非常に素早く整備が為されており、そのときの苦労は大変なも のであっただろう。また、その地震計のデータをいかに早く公開できるかと いうことにも心砕かれており、これからそれらのデータの恩恵を受けるであ ろう学生としてたいへん嬉しく感じた。
 地震観測網整備が将来のための防災であるならば、強震動予測地図は現 在または近い将来のための防災であろう。講演でも指摘されたように、こ の地図はまだ不確定性が高い。しかし、地震研究の成果として国民にとっ て最も分かりやすく関心の高い物の一つであり、これを基盤に防災の整備 がなされることになる。国民が地図の性質を知った上で見れば大変有用な 物である。藤原さんらの努力で地図作りの一歩目が踏み出された。これを もとに、将来より良い物となっていく事を期待し、自分自身も貢献してい きたい。
伊藤 拓(環境学研究科地球環境科学専攻・M1)



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