名古屋大学防災アカデミー

第1回 「阪神・淡路大震災から10年目を迎えて-地域防災の劇的な変化とその方向性-」

講師: 鈴木 康弘 (環境学研究科教授・災害対策室長)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2004年5月20日(木)17:00-18:30

 昨年度は地震防災連続セミナーという名前でセミナーを開催してきましたが、今年度から講 演内容や講演対象を広げ「防災アカデミー」という名前でやっていくことになりました。 当日は季節外れの台風接近で大雨が降っておりましたが、43名という多数の方にお越しいただきました。




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災害対策室長・鈴木康弘教授。今回の話はこれまでの活断層研究の経験にもとづいた、今後の地域防災の展開の話でした。


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会場の様子。今回は大学外で防災関連の仕事に従事されている方も多数お見えになりました。これからも地域の方の来場をお待ちしております。


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話のメインは活断層の話ではなかったのですが、質問は活断層のことに集中しました。





セミナーに参加しての感想

 今、地域の方々の悩みは「地震が来ることは分かったけれど、何をどう備 えていいのか分からない」ということだ。行政から防災に関する様々なサ ービスや啓発用のパンフレットが配布されているが、情報量が多すぎて、 全てをやろうと考えるととてもできないというのが本音らしい。また、与 えられた情報が必ずしも自分の家庭や地域の特性にあった内容でないこと にも戸惑いを感じているようだ。最近はハザードマップにより、東海地震 などによる小地域ごとの地震動の数値や液状化のエリアが具体的に示され、 被害状況がイメージしやすくなった。しかし、このデータが個人や地域の 防災力を向上させるための有力な資源となっているのかと考えると、そこ にはもうひと仕掛けが必要なのではないかと感じる。すなわち先生のご指 摘にもあったような、「ハザードマップの有効活用」である。しかし、防 災に対する知識やノウハウの少ない住民にいきなりこのような課題を投げ かけてもそれは非常にこくな話である。やはり紙媒体だけではなく、そこ に、このマップの情報を使ってどのような備えができるのかをきちんと説 明したり、地域の方々と一緒に考えることのできる「人の手」が必要とな る。このふたつがセットになればさらに地域住民の防災行動に結びつきや すくなり、ハザードマップの有効性も高まるのではないかと思う。今回の 先生のご発言から、その役割を担うのが、名大災害対策室のような地域に 開放された専門窓口であり、私たちのように被災地での現場経験を持つN POではないかということを改めて感じた。
浦野 愛(特定非営利活動法人レスキューストックヤード)


 活断層真上問題(直上の方が語呂が良いと思う)に関する話は初めて伺 う内容が多く大変勉強になった。特に、「専門家の誤解が活断層に対する 認識を妨げているのではないか」という指摘は自らも肝に銘じる必要があ ると感じた。ただ、カリフォルニアやニュージーランドと比較した場合、 日本の、特に都市部における土地利用の事情は大きく異なっており、「活 断層法」の制定に大きな障害があることは容易に想像できる。数千年先か も知れない地震の危険性を主張するだけでは問題の解決につながらないの ではないかという気がした。時と場合によっては行政・立法機関を動かす だけの力(政治力、説得力、迫力...)を研究者も持つ必要があり、また、 リスクとコストを計りにかけるバランス感覚が無ければ、正当な主張でも 説得力を持ち得ない。今後は、研究者と言えども、各自の専門分野の考え 方や枠を越えて様々な活動を展開することが求められるのかも知れない。 その意味では、鈴木先生の講演は活断層という専門分野の視点が若干強調 され過ぎているように感じた。一方、そうした専門的な色合いを薄めてし まえば、地域防災における大学と行政の役割分担が不明確になってしまう。 このあたりのバランスの取り方は難しい問題である。今後、大学の災害対 策室が何を目指しどのような立場で取り組んでいくのか、地域の方々はも とより、全国の関係者がプロトタイプとしての名古屋に注目するだろう。 災害対策室長である鈴木先生の大胆な舵取りに期待したい。
鷺谷 威(地震火山・防災研究センター 助教授)



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